P05 〈一冊の本〉 『生きる冒険地図』 本研究所嘱託研究員       坂本 香織(精神保健福祉)  本書は、近くに頼れる大人がいなくて困っている子どもたちへ、生きる知恵と工夫を伝えるための絵本である。本書の著者ユニット「プルスアルハ」が属する「NPO法人ぷるすあるは」は、精神障がいを抱えた親とその子どもたちを応援するために、2015年に設立された。  本書では、中学生の「MIRU(みる)」と小学生の「IRU(いる)」のふたりが、生きるための冒険地図を案内してくれる。MIRUには目が3つある。2つの目は現実を見る目、3つ目の目は、見えないものをしっかりと見分ける目だ。IRUは、こわい気持ちから守ってくれるお守りの帽子をかぶっている。  ふたりは、前半では、頼れる大人がいない子どもに、自分で何とか生き延びる方法を教える。例えば、「おなかがすいたときには、さつまいもやジャガイモをラップでくるんでレンジでチンするとおやつになる」とか「体操服のゼッケンは、ひとまず木工用ボンドで貼り付ける」などである。そして、がんばっても準備できずに忘れ物をして怒られたときには、「ひたすら時間が過ぎるのを待つ」「あやまる(←とりあえず)」という、やり過ごすスキルまで教えてくれる。具体的な場面での具体的な方法は、確かに子どもの役に立つのかもしれないが、大人のひとりとして、せつない気持ちにさせられる。  後半で、ようやくMIRUとIRUが、頼れる大人を見つける冒険にでるのだが、ふたりは、大人もいろいろいること、相性があること、完璧な大人はいないこと、ひとりの大人だけで全部解決することは難しいことを、子どもたちに伝えてくれる。ありがたい。大人だからといって、みんなが何でもできるわけではない。大人だって苦手なこともできないことも短所もあるのだ。そのことを率直に子どもたちに伝えてくれているのが本書の特色でもある。  子ども向けに書かれた本書であるが、大人にもぜひ読んで欲しい。がんばることもがんばらないことも、誰かに話すことも話さないことも、諦めたり手放したりすることも、家族と気持ちが通じ合わないことも、いやな気持ちになることも、どれも全部あって良いと思わせてくれる。生活は、きれいごとばかりでは成り立たない。いつでも完璧な「良い大人」でいることはできないのだから。  ここ数年の「外出自粛」や「感染予防」によって、地域では交流の機会がめっきり少なくなった。近くに住んでいても、お互いの家庭の様子に気づくことが難しくなっている。本書を手にした人たちが、地域に、身近に、MIRUやIRUのような困っている子どもや家族は「多分いない」から「いるかもしれない」と思ってくれるといいな、と思う。もちろん、子どもたちには「頼れる大人は、探せばきっといる」と思って欲しい。